第二部【楽園】
◆第四話・前編◆
大きな銃声が響き渡ったその直後、ムクは背中に熱いものが触れているのを感じました。
ムクは震える身体で、そっと自分の背中を振り返ります。
すると、男の放った銃弾がなんとムクの身体の数ミリ手前で止まり、ムクの服を僅かに焦がしながら、宙に浮いた状態になっているではありませんか。
ムクは驚いて、さらに後ろを振り返りました。
そこには、右手に拳銃を握り締めたまま、固まって動かない長い髪の男の姿がありました。
ムクは一瞬、何が起こったのか分かりませんでした。
「良かった!間に合って」
その声は、男の左手の中から聞こえて来ました。
そう、小石のスベテです。
「私が少しだけ時間を止めたの。でも、おばあさんの時計のように世界中の時を止めることは出来ない。せいぜいこの周りだけ。さぁムク、私と一緒にこの場を立ち去りましょう。あと5分もすれば、またこの男が再び動き出すわ」
ムクは小さくうなずくと、背中の銃弾をサッと払いのけ、弾は砂の上に力無くポトリと落ちました。
そして男の元に歩み寄り、握り締められた左手の指を一本ずつ緩めると、中から温かな小石のスベテが顔をのぞかせました。