急に外気の暑さが気にならなくなった。美香は瞬間、恐怖に口をつぐんだが、怯えながらも先を促す。
「殺し方っていうのは、つまり……?」
「ミルトの住人なら苦しまぬように急所を一撃で、サハールの住人ならあちこち傷つけて血を流させた上で砂漠の真ん中まで馬で引きずって行き、鳥やハイエナの餌にさせる。」
美香は絶句した。額から落ちて目に入った汗は、決して暑さのためではない。やけに冷たい汗だった。美香は思わず両腕で自らを抱え込むようにして、ジーナからパッと目を反らした。
ジーナはそんな美香の様子を変に嬉しそうに眺めた。
「いい反応だ。正常な証拠だな。」
「私には、ジーナがそんなことをするとはとても思えない。」
早口で言った美香の横顔を、ジーナは片眉を下げて見た。
「それはどうも。だが私は、お前が思っているような優しい人間じゃない。――私は、東国サハールの人間が、憎くて憎くてたまらないんだ。」
ジーナは確かに笑っていた。笑いながら吐き捨てるような口調だった。これ以上聞いたら彼女のプライバシーに関わるのでは、いや、それ以前に、聞きたくない。美香はそう思ったが、ジーナは興奮してきたのか、少し体を震わせながらしゃべり続けた。
「あいつらが長い歴史の中、我が国に何をしてきたか知っているか?ミルトの戦力がサハールより劣っているのをいいことに、我が国の領土を踏みあらし、鉱山から貴重な財源を好き勝手に採掘し、おまけに近隣の村々へ繰り出しては嫌がる女たちを捕まえて奴隷の真似事をさせた。それだけじゃない。平和条約を結んでおきながら、幾度我が国に戦を仕掛けてきたことか。賢明な歴代の王たちは奴等に一片の信頼も置きはしなかったがな。」
ジーナは一気にそこまで言うと、息を乱す様子もなく、フッと小さく息を吐いた。しかしその後、ギリ、と歯を噛み締める音がして、美香はびくりと肩を震わせる。最後に、ジーナは押さえきれない激しい怒りをはらんだ張り詰めた声で、絞り出すように言った。
「特に、あの女は…!サハールの中でも最悪に穢らわしい、魔女のように醜い心を持って我が王に言い寄るあいつだけは、どうあっても許せない……!」
ジーナはそれきり沈黙した。美香は唖然として話を聞いていたが、その時、その『女』というのが誰か、わかったような気がした。