エピソード0【序章】
『ねぇ、美嘉あの事件から、もう10年もたったよ』
女性は、空を見上げながら風に靡く髪を手で抑える。
『時が経つのって早いのね』
今にも泣きだしそうな彼女は、ポケットの中から一枚の写真を取り出した。
「静奈…」
「……………」
彼に呼ばれ、彼女は彼の顔を見る。
その目には涙がたまっていた。
「大丈夫か?」
彼が何度心配そうに声を掛けても、彼女は、大丈夫だからと言う。
しかし、泣いている彼女が言っても説得力のカケラもない。
それは何故か……
それは、彼女が泣いているから
「……………」
彼は、そっと彼女を抱きしめる
まるで、泣いている子供をあやすかの様に……
しかし、そこにはなんとも言えない愛しさが込められていた。
『……………?』
彼女は、何故自分が抱きしめられているのかが理解できずにいる。
そして、彼女の耳に彼の低い声が響いた。
嗚呼、なんて安心する声なんだろう。
『零二……?』
彼女は、彼の背中に腕をまわした。
微かに彼の体が小刻みに震えていた。
『泣いているの?』
何故貴方が泣くの…
今度は、逆に彼女が彼をあやした。
「聞かせてくれ」
『えっ?』
「昔に何があったのかを」
黙り込む。
静奈も零二も黙り込む。
しばしの長い間沈黙 。
それを破ったのは、彼女…
静奈の方だった。
『後悔しないでね』
そして、語りだした彼女の過去。
重い口から紡ぎだされる真実。
俺は聞きたい
それは、彼女の彼として……
そして、彼女の親友の兄として………
『あれは』
それが
たとえ…………
『10年前の事…』
君を恨みそうなぐらいに醜い過去だったとしても。
エピソード0【序章】end
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