奇跡 2章 1

木村蜜実  2009-08-06投稿
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「早く!達也こっちだよ♪」

久々に行く動物園。
あかねが嬉しそうに僕の手を引っ張る。

「そんな焦らなくても大丈夫だよ…。」

ぴたっと止まり、あかねは僕の顔を覗いた。

「…どっ…どうした?」

「なんかいつもと違う。」

「そうか…?そんな事ないけど…。」

「ふぅ〜ん。ならいいけど…。」

あかねはそう言うと、また僕の手を引っ張って歩きだした。


あかねは感づいている。

僕が九州へ転勤する事は知っている。

ただ、このまま関係を終わらせる事はまだ伝えていない…。

そう、ただ『終わり』にするのではなく、春香を選んだ事も…。

今日しか、時間がない…。

あかねは僕にとって最高の女性だ…。
完璧すぎて、僕にはもったいない位だった。
だから、時々疲れる事もある。
仕事も真剣で、家事も完璧で、僕だけを見てくれる。
そんな女性を捨てるなんて、周りの男からしてみたら、
『なんて贅沢なヤツだ』
と思われるに違いない。

でも、あかねといるより、春香といた方が楽なんだ…。



「やっぱり暗い!」

あかねは眉間にシワをよせてふて腐れた。
真っ赤に染まる空の下。
車の中で、赤く染まる空を眺める。
あかねの瞳が涙目に変わる。

「あのさ、あかね…。」

僕が話しを切り出す。

「あっ!待って!」

腕を掴んで話しを止める。

「話しあるんでしょ?あたしん家の前に着いたらしてよ。」

あかねは微笑んで、また外を眺めた。

やっぱり気付いている。

僕の手が少し汗ばんだ。

あかねの微笑んだ顔を見たら、『別れ』なんて言いたくなくなった。

今更、僕は何を考えてるんだ…。

あかねの家まであと少し。

僕の恋もあと少しで終わる…。

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