奇跡 2章 5

木村蜜実  2009-08-06投稿
閲覧数[375] 良い投票[0] 悪い投票[0]

目が覚める。

知らない女性。

知らない男性。

僕の両親。

僕は…。井上達也…?

「達也!気が付いたのね!」

泣いて叫ぶ女性。

「君は…。誰?」

「春香さんよ。あなたとお付き合いしてるでしょ?」
母は女性の肩を抱いて僕を見た。

「違う…。そんな名前じゃない…。」

僕は何を言ってるんだ。

たしかに、この人の事は知っている気がする…。

付き合っていたのは…。
やっぱり、違う。
でも、名前が思い出せない。
顔は覚えているのに…。

「達也…あたしの事わからないの?」

女性は涙を流しながら、僕の手を握る。

「ごめん…わからない…。」
僕には謝る事しか出来ない。

頭が割れそうに痛い。

「少し横になりなさい…。」

そう言って、母は女性を連れて出て行った。

「井上君、私の事もわからないのか…?」

僕は顔を見て、首を縦にふった。

残念そうにその男性も、肩を落として出て行く。

「今はいい。少し休め。何か買ってきてやるから…。」

父も重い腰を上げ、出て行く。

僕は外を眺める。

僕は、何か大事な事を忘れているような気がした。

僕は…

何故病院にいるんだろう。
何故怪我をしているんだろう…。

ここは…。

何もわからない…。

外は月が輝いて見える。

月…。
星…。

だいぶ前に、大事な人と見た記憶がある…。

誰だっけ…。

思い出せない…。

頭が痛い…。

『達也。』

顔も声も覚えているのに…。

どうして名前がわからない。

『達也、大好き。』

そう、僕も確か、その人を好きだった。

好き…ではない
愛していたんだ…。

満月が好きだったあの子…。

僕の側でいつも笑顔でいてくれたあの子…。

そうだ、
確かに覚えているんだ。

僕は忘れる事はなかった。

その子の名前は…

「あ…かね…。」



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 木村蜜実 」さんの小説

もっと見る

恋愛の新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ