金持ちそうな家の呼び出しチャイムを私は思いきって押した。まだ今のようにテレビモニター付きインターフォンが普及していなかったので、顔の見えない相手と機械越しに私は挨拶した。
「はーい。」年輩の感じの女性の声が聞こえた。
「はじめまして。わたくし丸和マンションの南と申します。」
「うちはマンションは要らないわよ。」相手は途端に冷徹な声色に変わった。
「いえ、マンションの販売の話ではなく、お宅の南側の空き地に計画する当社のマンション計画について、ご説明にまいったのですが。」
「えぇー。ちょっと待ちなさい。今、行くから。」すでに怒ったような声が聞こえてきた。
この仕事で私が一番きらいな時だった。