ミユキは更に観察を続けた。
手前の方に目をやると、派手な服装の中年の男女と、その息子と思われる3人が固まって座っている。
――抽選会場でそれぞれ1等・2等・3等と当選した3人だ。
そこへ今度は、水色のブレザーに紺の蝶ネクタイをした、背の高い男がやって来た。避暑地のホテルにいたフロントマンである。
何故かその男が、親子3人のところへ来て、ビールを注ぎながら、こう話した。
「皆様方には、本当にお手数おかけしましたねぇ…景品と称して、自家用の外車や高級指輪など、ご用意いただいて」
それを聞いた、中年女性が言った。
「いえいえ、ワタシ共はちっとも…大変だったのは、この子だけでございますわ。ゲームの途中で液晶テレビを外したものですから、『RPGがリセットになった』と、ショックを受けておりますの」
その横で体育座りしている、覇気のない息子をさほど気にする様子も無いままに、中年夫婦はフロントマンから注がれたビールを旨そうに飲んでいた。
隣りに目を移すと、『スナックメラミン』の元アルバイトが、同じく『メラミン』のマスターに向かって話しているのが見える。
その表情はまるで、どちらが雇用主か分からない風であった。