「…何も、起こらないのか…?」
蛍がシーラの中に消えた時ほんの一瞬だけランスォールの脳裡を掠めた小さな希望。
そんな筈はないと思いながらランスォールは震える手でシーラの手に触れた。
彼女の手は依然白いままで氷のように冷たい。
「そう…だよな……
そんなこと、あり得ない…」
「ランス?」
「一瞬、期待してたんだ。
あの蛍が命のカタチそのものだとしたら、もしかしたら…ってさ。」
「…いこう、ランス。
【三種の神器】を封印しよう。」
ラウフが促す。
「……ああ」
ゆっくりと手が離れていく。
その時
「………っ!?」
ぴくりと指先が動いた。
驚きで動かないランスォールを不審に思ったラウフが声を掛ける。
「ランス、どうした?」
「今…」
「え?」
雪も聞き返す。
「今、動いた…」
「んなバカな…」
三人がシーラを覗き込むとまた指先が動いた。
「うご…いた…?」
「おいシーラ!」
強く揺するとシーラの眉がまたぴくりと動いた。
何度も何度も呼び掛けるうちやがてうっすらと濡れた瞳が覗いた。
「シーラさん!!」
真っ先に飛び付いたのは雪だった。
「雪…ちゃん…?」
消え入りそうな声でシーラが答える。
それこそ、彼女が確かに生きている証だった。
もう二度と聞けはしないと思っていた声が、もう二度と触れられないと思っていた温もりが心に染みて暖かさと共にじんわりと広がっていった。
「おかえり、シーラ。」
ランスォールが言うと、シーラはまだ体が思うように動かないのか瞳だけをこちらに向け、静かに、
ほんの少しだけ微笑んだ。