ム、生意気なこわっぱめ。随分とたいそうな口を きくではないか
小さな子猫に盾突かれて腹立たしい ねこひげは視線を子猫へ転じます。
恐ろしくなって身をすくませる子猫を庇うように猫丸が立ち塞がりました。
おっとぉ、怪盗ねこひげとやら。
まさか こんな子供に手をかけるなんて情けない真似しねぇよな?
子猫が見上げる猫丸は口元に うっすら笑みを浮かべ怪盗ねこひげを横目で見下げています。
まとう空気は未だに張り詰めたままですが、ひりひりと被毛を透過して浸みてくるような殺気は大分和らいでいます。
今の猫丸は ねこひげを圧倒するほどの自信に充たされたようにさえ思えます。
フン、礼儀を わきまえぬ子供には躾が必要であろうが
あんたの目的は笛なんだろうって、言ったよな
初志は貫徹しろよ。
猫丸の言葉に ねこひげは思い直します。無力な子猫に目くじらを立てるのは確かに みっともないですし、目的から逸れては時間の無駄になります。
...ああ、当然だ。
さあ、その笛を我輩に渡すが良い。
盗りたきゃ自分で盗れよ、怪盗なんだろ?
それとも実は誰かに頼まれたのか?この笛を取り返して来いって
見くびるなよ、小僧...。
我輩は誰の指図も受けはせん!貴様らの下らん お家騒動に興味はない!
怪盗ねこひげは飛び掛かる態勢をとり、対する猫丸も応戦のために子猫を後方へ突き飛ばして構えます。
ねこひげは その一瞬の隙を見逃しはしませんでした。
ふたつの しなやかな直線が空中で交差し離れます。
怪盗ねこひげの鋭利な爪の切っ先が猫丸の胴を掠め、サバトラの美しい被毛の幾筋かと共に笛を納めた笛筒の肩紐を切断したのでした。
フハハハハハ!
この龍笛、確かに怪盗ねこひげが いただいた!
転がり落ちた笛筒を拾いあげ口にくわえたとは思い難いほど明瞭な口調で宣言し、素早く立ち去ろうとする ねこひげの前に子猫は立ち塞がって懇願します。
おねがいです!その笛を持っていかないでくだすぅわい。
子猫は舌を噛みながらも必死で[にゃ]がつかないように訴えます。ねこひげに認めてもらえなければ話も聞いては もらえないと思ったからに他なりません。