「この地下126階に、魔王を倒すための強力なアイテムがあるはずだけど…」
勇者が、攻略本を見ながら、ダンジョンの中を見渡す。
「おい、おまえら!」
突然、暗闇の向こうから、ぶっきら棒な声が響いた。
「だ、誰?」
勇者が、へっぴり腰で返事をする。
「よく来たな。オレは、伝説の道具屋だ」
闇の奥から現れたのは、小太りのオッサンだった。
「伝説の道具屋?」
「そうだ。オレは、魔王決戦用アイテムを専門に扱う道具屋だ。偉いんだぞ!」
なぜなのか、ものすごく威張っている。
「私たちは、魔王を倒すための旅をしている者です。ぜひ、そのアイテムを譲っていただけないでしょうか?」
神官が、丁寧な言葉でお願いする。
「50万G、払え」
「えっ、お金を払うんですか?」
普通、そういう重要なアイテムというのは、タダのはずである。
「当たり前じゃん」
オッサンが、涼しい顔をして答える。
「…わかりました。払います」
さいわい勇者たちには、多少の蓄えがあった。魔王を倒すためならば、仕方がない。
「よし。じゃあ早速、おまえらに伝説のアイテムを売ってやろう」
50万Gを受け取ると、道具屋のオッサンは、奥から宝箱を運んできた。
「まず1つめ。プリペイド式の携帯電話だ」
「え?」
意表をつかれた戦士が、思わず声をあげる。
「この携帯電話は、絶対に逆探知されない。そして、通話時間は無制限だ」
「はあ」
勇者が、気のない返事をする
「2つめは、伝説の石板だ」
やっと、それらしいものが出てきたので、勇者たちの期待は高まる。
「この石板に刻まれている数字は……魔王の自宅の電話番号だ」
意味がわからない。
「そして3つめ。『世界のお経・24枚組・CD-BOXセット』だ」
あきれた勇者たちは、地面に座りこみはじめた。家事手伝いの少女などは、iPodを聴いている。
「それって、もしかして…」
「そうだ。この3つを使って、365日24時間ぶっ続けで、魔王の家にイタズラ電話をするのだ。これで確実に、魔王の力は半減する」
「本当に?」
「間違いなく、魔王はノイローゼになり、不眠症に陥る」
道具屋のオッサンは、自信に満ちあふれていた。
「元・ストーカーのオレが言うんだから間違いない。ひたすら『お経』を流しつづけるイタズラ電話が、いちばん効く。うまくいけば、自殺したりする」