「佐野さん、今日はありがとう」
正の感謝の言葉に、佐野は嬉しさもあったが、今までの正に対する接し方を考えて、いつもどおりの応対にした。
「まあ、感謝しなさいよ。今日で最後だし、送別会もかねてなんだから!」
「それでも嬉しいですよ。いろいろ話出来たし…」
「まあ…頑張んなさいよ!…あんたも次の店…その次の店でもいいから、いい人を見つけなよ」
佐野の言葉はもちろん本心ではなかった。
34年間、交際していたと言えるのは、高校時代と21〜2くらいの時で、その強気な性格が災いして、全く男っ気のない自分に、食事に誘ってくれた。
そのうえ、今いちもてない正とはいえ、話をじっくり出来た。
本当は、正との食事は嬉しかったし、普通のカップルのように、手をつないでみたい…(まあ、自分の柄じゃないかなあ…)
2人は、いつも長く待たされる信号にさしかかった。
「ここいつも待たされるのよね。手前に交番あるし、イライラするわ…」
「ここだ…」と正は思った。
勇一から教えたもらった口説きゼリフ…しかし言って大丈夫だろうか?
でも…言わなかったら、俺はこの先もきっと後悔するだろうな。
いつも、そうだった。
ストレートに告白したら『タイプじゃない』と言われ、合コンしても、盛り上げ役で終わる。
最近も、全く恋愛に恵まれない…
でも、大事なこと忘れてた…
こんな俺でも話を聞いてくれる女性がいた…
もう迷わずにいこう…
「佐野さん!」
「何?ビックリするじゃない。大きな声で」
「あっ!すいませんうるさくて」
「で!何?」
「その…」
少し、ごもごもしている正に、佐野は手を引いて場所を変えた。
「何よ!言いたいことあるなら、はっきり言いなさい!」
「その…信号なんだけどさ…」
「信号が何?」
「信号は、青になったり赤になったりだけどさ…俺は、俺の『恋愛信号』は、永遠の青信号でありたいんだ」
「何それ!どうゆうこと?」
「聞いてくれ。俺の恋愛信号は、永遠の青信号でありたいんだ。もし、その永遠に近づけるなら…俺はその永遠を供に歩いてくれる女性と歩いていきたい」
「そう…その女性が、見つかるといいわね」
「もう、見つかったよ」
「え、誰なの?」
「それは…」