中川から、掛って来た電話を一方的に切り、私は、放心状態になっていた。
私が、中川の言う事に逆らった事は、あの日以来、一度も無かった―\r
突然、電話が有って、今から出て来る様に言われれば、その通りに、中川に、逢いに出掛けた。
当然、不本意な事だった。
今春、就職して、仕事を始めてからは、電話が有れば、仕事が終わってから、直ぐに逢いに行っていた。
最初の頃は、拒否反応が尋常で無い位に強く、吐いたり、何か有れば、涙が溢れて来た。
中川は、そんな私を見て、声を上げて笑った。この上無い、屈辱だった―\r
そのうち、中川から逃げる事が不可能だと悟った私は、諦め、その苦しさや、屈辱から逃げる為に、中川に勧められるまま、薬を飲んだ。
頻度が少なかった事も有り、中毒になる事は無かったが、薬を飲んだ日は、気持ちが少しは落ち着いた。薬の効き目が切れると、そんな自分を責め、後悔し、嫌おう無い、嫌悪感が私を襲った。
さっき、電話で話した時の中川の発言が気になった。
最初の約束とは―\r
私が、中川と逢う事を拒むと、あの日に撮られた、辱められた私の写真を、ネットに流す―\r
と言うものだった。
本当に、そうしようと考えているのだとしたら―\r
想像するだけで、全身が、恐怖に震えた。
麗華の為にも、もう逢わないと、中川に、毅然とした態度を取ると決めた筈なのに、また、心は揺れていた。
それは、もう、中川に私の身も心も、コントロールされている証だった。
渋谷の雑踏の中で、私は、どうしたら良いのか解らず、今にも、叫び出してしまいそうだった・・・。
気が付くと、淳との待ち合わせの時間まで、あと三十分になっていた。
余計に落ち着かなくなった私は、先に、待ち合わせ場所の、Bar『r』に行く事にした。
待ち合わせのバーは、淳の行きつけの店で、道玄坂の路地の奥に有った。
店は、旧い店を改装した、白色で、インテリアで統一された今風の、お洒落なバーだった。
半透明の硝子の扉を引くと路地の奥に有る店だと言うのに、週末だからなのか、若い人達で、溢れ返って居た。
暫く、入口付近で、中をキョロキョロと見渡していると、騒がしい店の奥から、こちらに向かって、叫び声が聞こえた気がした。
「香里!!こっちこっち!」
声がする方を見ると、カウンター席に腰掛けて居る、淳の姿が確認出来た。
「あっちゃん・・・。」
一年振りに見る淳は、私が知っている淳とは、まるで別人だと思ってしまう程、強烈なオーラを発していた―\r