「それは…何?」
佐野は、正が言いたいことは、なんとなくわかっていた。
だが、その気持ちは、あえて口にしなかった。
しばしの沈黙の後、正は口を開いた。
「それは…佐野さん、あなたです」
思い切った告白だった。
正は、なんとなく感じていた。
この店に来た時に、自分の部門以外で話しかけてくれたのも、飲み会の時も独身だったこともあったが、粗暴な面もあったが、気にかけてくれたりもしていた
お互いに、なかなか恋愛に恵まれていないことも知っていた。
佐野も、最初は自部門の長である勇一の方しか見ていなかった。
だが、性格の違う正が、勇一と親友であること、正の何気ない優しさは知っていたので、今までより距離間は縮まっていると思っていた。
「迷惑かもしれない。それでもいいです。でも、最近夢に見るんです。佐野さんを…相変わらず怒られてるんです。
でも…気づいたんですよ。好きになってたんですよ」
「私に怒られていても?」
「ええ?俺は今まで、身の丈に合わない恋愛を追い求めてばかりで、もっと近くの存在を見ることをしなかった。それを気づかせてくれたのは、佐野さんでした。だから…だから自分の気持ちだけは、今日伝えようと思ってました。…ありがとう。話しを聞いてもらえて」
そう言うと、正は立ち去ろうとした。
「待ちなさいよ。私、何にも答えてないじゃない!」
そして、佐野は続けた。
「もし、もしよ。私となら、あなたの言う、恋愛の信号は、青でいられるの?自身があるの?」
「それは…」
「どうなのよ!はっきりしなさい」
「あります!ありますよ!例え途中で立ち止まったとしても、ずっと…ずっと青信号であると信じてます」
「…全く。途中で赤信号にしないでよね」
「え?それじゃ」
佐野は、正に抱きついた。
「いい。赤信号にしないでよ。それから、私のことは、これから『はるみ』って呼んでよ」
佐野の勢いに押されて、正はただ一言「はい」と答えた。
(勇一、ありがとうな…。)
きっかけをくれた、勇一の行く末を気にしながらも、感謝していた。
そして、2人は口づけをした。