結婚12年目にして女房に離婚を切り出された時
俺は生きる気力をなくした。
真面目だけが取り柄な俺。
女房と子供三人のために
仕事とバイトの掛け持ちをして、懸命に働いてきたつもりだった。
だが、どう言い訳しようと、女房は俺を捨て他の男を選んだのだ。
夫として男としても失格なんだと、言われてる気がした。
離婚してからも、そんなことばかり、毎日考えては落ち込んでいた。
まさか医者に『鬱病』と診断されるとは思わなかったが…
サイトのブログで鬱病に苦しむ女性を見つけた時、同じ苦しみを共感できる者として運命を感じたほどだ。
だが厄介なことに彼女は霊感の持ち主だった。
恋人として付き合い始めしばらく経った頃
夜中に突然 彼女は起き出して天井を指差し
『ほら子供が三人走り回ってる』
『壁から、こっちを覗いてる顔がある。沢山いる。気持ち悪い顔、血だらけの男が睨んでる』
恐怖に怯えたかと思ったら今度は、焦点の定まらない眼差しで俺を見る。
常に目は虚ろで生気がなく毎日 何もせずぼんやりと暮らしている女だった。
彼女は一人暮らしだったが重度の鬱病のため、社会生活は難しく生活の面倒は、親戚がみているようだった。
ただ、ぎらぎらした目で髪を振り乱しながら、包丁で空を切る彼女を見ていると、恐怖感よりも哀れさを感じた。
空気が淀む薄暗い部屋の中で、身体を丸めて寝ている彼女を見ていると
おかしな話しだが、俺は次第に自分を取り戻していった。
しっかり生きなくてはと 思うようになった。
同時に彼女との別れを考え始めた。
彼女によって救われたのに自分勝手な話しだと思う。
彼女の叔母に当たる女性と連絡を取り合った。
今後の彼女の治療について会って話しをした。
包丁を振り回す行為を、黙って見過ごすわけにはいかない。
話し合いの結果、病院に収容させるしか他に手だてはないと意見が、まとまった。
親戚の女性が俺に言った。
『あの娘の霊感は本物だと私は思っています。怖いと思います。苦しいと思います。でも貴方にも幸せになる権利はあるのよ』
涙が溢れ出て止まらなかった。
言い訳はしない。
俺は彼女を見捨てたのだ。
その後 俺は彼女に別れを告げた。
荒れ狂うかと覚悟してたが、彼女は穏やかに微笑んでいた。
『それが正解だよ』
彼女の言葉は一生忘れない。