何も聞こえない、
何もない…
真っ白で、壁も床も天井も重力も存在しない
どっちが上で、どっちが下なのかさえ分からない…
そんな殺風景な世界の只中で、彼は胎児のように、ミリ単位でゆっくりと回っていた
何も無い世界
彼という存在
ただ、
それだけ
あまりに果てしない時の中で、彼は呆けたように無心でいる
体は完全に脱力状態で、目は虚ろ
まるで思考が停止しているかのようであった
しかし突然、彼の頭の中に疑問が浮かぶ
何故、この世界があるのか
何故、僕だけなのか…
と、この光景を“当たり前”だと思っていた彼にとって、とても可笑しな疑問だった
僕はどうやってこの世界に産まれたのだろうか…
母親は居るのだろうか…
この世界の果てに、壁のような物質は存在するのだろうか…
頭の中で意味も無く繰り返される疑問
すると、暫く考え込んでいた彼の眼下に、あるモノの影が姿を表す
最初は霧がかかったようで見えなかったが、徐々にはっきりした形になってゆく
彼はとても興味を惹かれた
影の正体は大きなクジラであった
ヒレを羽ばたかせて泳ぐ姿は大迫力である
「あの生き物は…」
初めて彼が言葉を口にした、
次の瞬間―――\r