天は人に二物を与えず。有り余る力は身を滅ぼす。何事もほどほどが寛容。 街は阿鼻叫喚の渦に呑み込まれていた。当たり前だ、アレだけ乱射しながら特撮映画さながらのカーチェイスをしてたんだ、騒がねー筈がない。あまつさえパトカーさえも追ってこなくなっている。もはや道路は俺と追っ手達の独走場と化した。 [男]「おうおう、良いねぇ〜。暴れるのに絶好なシチュエーション!派手にキメてやるかッ!!」 バックミラーで車間を確認しつつ懐からジッポライターを取り出した。一服するためではない。カチッと良い音を立て蓋を開き、ヤスリ(着火するためのギア)を引っ張ると底の一部分が外れた。今度はソレを引っ張るとキュルキュルとスチール製の線が伸びていく。底の一部分を重りに窓の外でブンブンと振り回し、近くにあった電柱に投げつけた。スチールの線はグルグルと何重にも巻き付く、俺は軽く引っ張った。ただソレだけでスチールの線は電柱を引き締めるよりも早く何重にも引き裂いた。反応に遅れた一台の車が電柱の下敷きになり感電して爆発、赤雲の煙を立ちのぼらせる。 [男]「オゥラァッ!一丁ッアがりぃ〜☆、続いてもう一丁ッ!」 ヤスリをスイッチのように押すとスチールの線が素早く巻き戻ってきた。またスチールの線を伸ばすと次はジッポライターの方を一台の車に投げつけた。上手い具合にワイパーに引っかかる。ソレを確認して今度は底の方を上に投げた。 [男]「あばよッ!」 柳沢し○ごのモノマネをしたのと同時にライターが引っかかった車が前転しながら盛大に爆発した。残り一台となった車に乗っている追っ手達は新しくできた赤雲を呆然と見つめていた。
理屈はこうだ。ジッポライターの中に入っていたのはオイルではなく、車なら優に吹っ飛ばせる事ができる程の小型爆弾が代わりに入っており、上に投げたスチールの線を電線に絡ませ電気で起爆。という訳だ
一遍に二台も破棄させた男に追っ手達は完全に消沈していた。沈黙した車内で誰もが二文字の言葉を連想させていた。静寂の空間に車を走らせる音と火花を散らせる音、燃える音、早鐘を打つ自分の鼓動の音が静かに響き渡っている。 [追っ手]「!?」 その響きの中に新しい音が邪魔するように割り込んできた。ソレは携帯電話からであった。
…続く