会議室の中、準備をしている洋人に近づく向井。
「お前にだけは負けんから。」
顔を上げ、向井に視線を向けたタイミングでコンペの審査を行う上司達がぞろぞろと会議室に入ってきた。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」
デスクで仕事をしながら時計を眺めるあゆみ。
「そろそろかぁ。頑張れ…」
コンペが終わり会議室を出て行く上司達。
「松山は残れ。」
険しい顔で田原が呼び止める。
「どうゆうことだ?俺に恥をかかせたかったのか、お前。」
「自分のしたいことが分かりません。目標が見つからないんです。」
淡々と答える洋人。
「たった3年やそこらで何の結果が出せるんだ?周りの期待全部をお前1人が背負い込んでるつもりか?」
「違います。ここは今の僕がいるべき場所ではない…と。」
田原の前に差し出された辞表。
噂はすぐに部署内に広まっていた。
「松山、やっちまったなー。」
同僚の話を耳にしたあゆみが洋人の元へ向かう。
「洋人!」
洋人を見つけ呼び止めるあゆみ。
返事なく振り返る洋人。
「コンペの企画、白紙って。最初からそうゆうつもりだったの?」
「…うん。会社辞めるから。」
あゆみの顔を見ず答える洋人。
「なんで?頑張るって行ってたよね?」
「もうずっと前から考えてた。俺のしたいことはここにはないから。」
「何それ。向井くんに抜かれるのが怖いから逃げたんじゃないの?」
あゆみには本心を見抜かれている。
自分の方が立場が上だと思っていた相手が成績を上げ、それと反対にして成績を上げられない自分。
コンペの企画が上がった時も勝負をする前から諦めていた。
今の洋人は弱い自分から逃げることでプライドを保っているつもりだった。
「出会った頃は洋人こんなじゃなかったのにね…。」
「落ちてく自分を見せんのが嫌なんだよ。」
「じゃ、あたしって何の為にいるの?洋人の弱いとこも全部受け止めれるつもりでいるのに…。」
納得いかない表情で洋人を見つめるあゆみ。
「ごめん。戻るわ。」
一度もあゆみの顔を見ることなく立ち去る洋人。
自分のデスクの周りの荷物をまとめる洋人に近づく向井。
「あー不戦勝かよ。だせーなお前。」
笑いながら肩を叩く向井。
何も言わず会社を後にする洋人。