人間バス

ニコル  2009-08-18投稿
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気がつくと僕はバスに乗っていた。



いつから乗っているのかはわからない。



ずっと前だった気もするし



ついさっきだったような気もする。



僕は思いきって尋ねてみた。


「このバスはどこに向かっているのですか?」



しかし乗客は誰ひとり口を開こうとはしない。



それどころかみんな指先ひとつ動かさない。



僕は運転手に尋ねてみた。



「このバスはどこに向かっているのですか?」



運転手は少し困った顔をして答えた。



「君はどこに向かっているのだい?」



僕は困ってしまった。



僕には行きたい場所も、会いたい人もいない。



僕は少し考えてからこう答えた。



「僕には向かう場所なんてありません。」



運転手はまた困った顔をしてこう答えた。



「それじゃあ、このバスはどこにも向かわないよ。」



僕は納得がいかなかった。



このバスは確かに進んでいる。



それならば僕がどこにも向かっていないはずはない。



運転手は続けてこう言った。



「このバスは確かに進んでいる。しかし君は少しも進んではいないじゃないか。」



僕は驚いた。




足元を見てみると、僕の体は少しも動いてはいなかった。




外の景色が動いているから、てっきり僕は自分が動いているように思っていた。




僕は少しも進んではいないのに。





向かうべき場所のないバスだけがゆっくりと進む。








僕はいつからこのバスに乗っているのか。







ずっと前だった気もするし




ついさっきだった気もする。





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