すると意外なことに、のんびり屋の王子が先に何かに気づいたようだった。
「……なるほど、確かにね。」
「?」
「サボテン地帯周辺が見える?もうあの辺りは岩場が増えてきてる。砂漠の終わりだよ。砂漠の東の果てには、ジーナの敵国サハールがあるんでしょ?」
ジーナの神経を逆撫でしないように、馬の手綱を握っている王子は馬上で身を屈めた美香に小声で囁いた。美香もああ、と納得する。そういえばそうだった。ジーナから領域の出口について説明を受けた時に聞いていたことだったはずだ。
だが、それにも関わらずジーナは案内人の役を引き受けてくれた。きっと精神的にはきつかったに違いないのに。
ジーナは無言で先頭を颯爽と歩いていく。カーキ色のマントを翻して。フードを深被りした頭は、しかし若干うなだれているように見えた。
同じく白いフードつきマントに身を包んだ二人は、無言で顔を見合わせた。美香は王子の目の中に自分と同じ色を見て、ちょっと安心する。――自分たちには何もできない。ここまで来させたことを申し訳なく思ってはいるが、これはジーナ自身の問題だ。もっとも、例え何かできることがあったとしても、子供の二人にできることなど限られているだろうが……。
それでも出口に着いた時には、心を込めてジーナにお礼を言おう、そして気持ちよく別れよう。二人共がそう思っていることは間違いなかった。
しばらく砂を踏み締めて進んでいくと、足下の感触が固くなっていくのがわかった。さっきまで何もない景色の中歩いてきたのだが、だんだん地面に埋まるように沈んだ石が目立ち始め、その表面が風化して白くなっているのまで見分けられるようになった。この二日間、薄い水色の空、太陽の光を真っ白に照り返す砂ばかりを目にして来たので、そんなわびしい景色さえ嬉しく感じた。
気づいた時にはサボテン地帯に突入していた。これまでと同じで、辺りに人気はなく、時折風が吹き抜ける音だけが空虚に響く。砂漠の管理者のジーナがこれまで侵入者の排除を行ってきたはずだから、これで人がいたら確かにおかしいのだが。