人間本当に怖いと声も出なくなる。
冷や汗が体中から吹き出した。洗濯機の中に髪の毛がぎっしり詰まっていたのだ。
「畜生」
自分を奮い立たせて、再び洗濯機の蓋を開けるとそこには何もなかった。
俺の背後のバスタブでなにか大きな物が跳ねた。
もう確かめるのも嫌だ。
俺は振り向かずに朝食を作るため台所へ向かった。焼き魚にしようと思って魚を見ると見るも無残に腐っている。昨日買ったばかりなのに……。
かろうじて食えそうな部分に包丁を入れた瞬間、異常に吹き出る鮮血。飛び散った血は一箇所に集まり、イタイ、と壁一面に書き記す。
慣れてきたとはいえ、小心者の俺としては毎回心臓が止まる思いだ。
一週間前、家に帰ってきたら幽霊がいた。
しかし、ぼんやりと考え事をしていた俺は気づかずに無視してしまったのだ。
腹を立てた幽霊は、怖がらせようとしてあれこれやってくれる。
トイレで座っているときには冷たい手が尻を撫で回し、シャワーを浴びればスライムが出てくる。
ウインナーの袋の中に入ってた犬の糞を窓に投げつけながら、俺は悪態をついた。
「怖がらせるのと嫌がらせを勘違いしてないか?」