目の前に羽根の生えた天使がいる。「あなたの願い事を一つだけ叶えてあげましょう」そいつは真面目な顔でそんなことを言ってきた。何を願おうか、だいぶ悩んだ末、
「どんなことでもいいのか?」
「ええ、どんなことでも」
「それじゃあ、母の病気を治してくれ」
「わかりました。治しましょう」
そう言って、天使は消えてしまった。
そんな夢を見たことも忘れ、半年が経ったある日、弟から電話があった。
「母さんが死んだ……」
母さんは胸を患っていた。子供の頃から迷惑ばかり掛けていた俺は何か親孝行がしたかったのだが、それも叶わない内に母さんは死んでしまった。母さんは最後まで俺の名前を呼び続けていたという。
葬式から帰ってきた俺は、部屋で一人で泣いていた。
「病気を治してくれるんじゃなかったのかよ!」
それとも、俺が「母の病気を」としか言わなかったのが、いけなかったのだろうか。「長生きさせてやってくれ」でも良かったのだ。
仮にあの時「金が欲しい」なんて言っていたら、もっと後悔するはめになっていたのだろうな。