3-11 香
抄司郎が椿のいる長屋の前までやっと戻ると,
微かな血の香りが鼻を触った。
― まさか‥!!
急ぎ中へ入ると,
部屋の床一面に血が散乱していた。
ここで,斬り合があったらしい。
部屋の隅に椿が血まみれになって倒れている。
『‥椿さん!!』
抄司郎は青くなって椿を抱き起こした。
『‥抄司郎さん?』
返り血を浴びてはいたが,どうやら気を失っていただけのようだ。
抄司郎はほっと肩をなでおろした。
『大変です!!』
我に返った椿は,飛び起きて抄司郎の着物の裾を握った。
『師匠‥師匠さんが!!』
椿の話によると,
抄司郎達の居場所を突き止めた武部の手下が1人この長屋に乗り込んだ。
師匠は椿を守るために盾となり,深手の傷を負いながらも,剣を交えたと言う。
†
長屋の前の河原から,
少し離れた所に,師匠は血だらけで倒れていた。
その傍らには武部の手下と思われる者が既に事切れている。
『師匠!!しっかりして下さい!!』
抄司郎は駆け寄った。
深手を負った師匠は,
今にも息が絶えそうである。
『‥抄司郎。』
『今手当てしますから‥!』
だがこの傷では助かるまいと,抄司郎は悟らずにはいられなかった。
≠≠続く≠≠