うねりのある海の上、左右に船が傾く。
無線で健二に問いかける陽介。
「やっぱ、うねりありますね。潮の速さはどんなもんですか?」
「んーダメだな。これだと網が流されちまう。今日は引き上げだな。」
「はい。了解です。」
他の漁船も判断を同じく港に引き返すことにした。
港に着く頃、係留する桟橋に彩の姿が見えた。
手を振っている姿が遠くからでもよく分かる。
彩は陽介と小さい頃からこの町で育った幼なじみである。
小さなバーを1人でしているが昼間はヒマなことが多いため陽介によく手伝いをさせられている。
「おかえり。今日大変だったでしょ?」
ロープを受け取り船に飛び乗る彩。
「商売になんねぇなー。」
「こっちもだよ。」
苦笑いを浮かべて陽介を見る。
「今日も客ゼロ?」
「イエス。」
「…お疲れさーん。」
逃げるように船から降りる陽介。
「ちょっと待ってよ!」
陽介は漁師と別にダイビングショップを経営している。
漁に出る日は店番を彩にまかせることが多い。
あくまで漁師が主なため、不定期営業であるがゆえ客足も伸びない。
観光客を期待できるこの季節に客足がないのは痛手でもあった。
「ねぇ、バイト代。」
手を差し出してくる彩。
「あるかそんなもん。」
彩の手を払いのける陽介。
「あんたさぁ、飲みに来てもツケばっかじゃん。せめてバイト代払えー!」
そう言い後ろから陽介を蹴る彩。
「はい、バイト代!」
満面の笑顔で缶コーヒーを渡す陽介。
「また飲みくるわ。」
「もう来るなっ!」
手を振り軽トラックに乗り込む陽介を呆れた様子で見送る彩。
「あー腹減った。」
空っぽの弁当箱が車の中で弾んでいる。