男たちのバカ笑いがやたらと耳に障る。相変わらず姿を見せずにサボテンの向こうから笑うので、不気味にそそり立つサボテンそのものがいやらしく笑っているように見えた。
美香はジーナの拳がブルブルと震えているのを見た。
「ふざけるな。」
やけに落ち着いた声だった。激しく落下を続けていたものが、すとんと底に落ちたような。それだからこそ、ジーナの中で何かの一線を越えてしまったことも明らかだった。
次の瞬間、ジーナは閃くような速さで何かを放った。ドスッと重い音がした、と思った時には、男たちの隠れているとおぼしきサボテンの内の一つに、小型のナイフが突き立っていた。
「我が王がどんな想いで……!どんな想いでお前たちの穢らわしい王女を迎えたと思っているのだ!」
こんな状況だというのに、この時美香にはハッと思い至ることがあった。
(そっか、そうだったのか…!ジーナの王様に言い寄っているサハールの女っていうのは、東国サハールの王女のことだったんだわ!)
王女ともあろう人なら、多少の我が儘は許されるのかもしれない。そう、例えば敵国である西国ミルトの王を好きになって、その王の元へ嫁ぐことだって……。
「そして戦争が起きたわけか……。」
美香が知らない内に王子もジーナの事情を聞いていたのか、美香の考えのさらに上を行くような発言を彼はした。
「戦争…?」
「うん、恐らくね。敵国の王女が王様を好きになって、こちらの国にやって来ました、なんて話、誰が信じると思う?スパイの可能性の方が高い。きっと争いが起きただろうね。そして王女が西国ミルトに居続けることの交換条件に、このサボテン地帯は領地外指定になった。砂漠に侵入することは両国どちらの人間も禁止され、王女が巻き起こした、そしてこれから巻き起こし得る争いを未然に防いだんだよ。そしてジーナはその最も重要な役割である砂漠の管理者としての任務を遣わされた。」
王子が言い終わった直後、ジーナの気迫と投げられたナイフにより沈黙していた男たちが、微かに雰囲気の変わった声色で呟いた。
「ほぅ…。俺たちと殺り合おうってのか、ジーナ。」
「気安く名を呼ぶな!」
「いいじゃねえか、仲良くやろうぜ。――たっぷりいたぶって殺してやるよ!」