それから、無言で、淳の右側を、ついて歩いた。
微かに手が触れた―\r
淳は、私の手をぎゅっと強く握り、私も、強く握り返した。
淳は、ファイアー通りで、一台のタクシーを停め、運転手に、自宅に向かう様に告げた。
私は、もう全て淳に打ち明け、抜け殻になっていた。
タクシーの後部座席で、淳は、たまに、私の肩に腕を回し、私の左肩を、何度かそっと叩いた。
「香里?一年前、お前に、俺、彼女と話しに行くって言ったろ?」
「うん・・・。」
彼女と、結局、どうなったのか―\r
一年前のあの日から、私は、知らずに居た。
「あれからも、何度と話してさ・・・。やっと、最近、落ち着いてな・・・。俺の店で働いてんだけどな・・・。新しく良い奴が見付かったみたいでよ。」
「そうなんだ・・・。」
「一時は、ヤバかったんだ・・・。俗に言う、リストカットって言うのか、腕が傷だらけでさ・・・。それもこれも、全部、俺が、ハッキリしなかったせいなんだけどよ。あいつ・・・、俺が初めてだったみたいで。女にとっては、初めてって、重要なんだなって、改めて解ったよ。」
「あっちゃんの事、本当に好きだったんだね・・・、彼女。私と一緒で・・・。」
淳は、私の言葉に少し、はにかんで、また下を向いた。
渋谷から、十五分位の距離なのに、とてつも無く、長い距離に感じていた。
タクシーは、デザイナーズマンションの前で、ハザードランプを焚いて停まった。
「ここ、あっちゃんの家?」
私は、淳が一人で暮らしている家を、初めて見た。
高校を卒業し、専門学校に通い出してから直ぐ、淳は、一人暮らしを始めた。
淳の家に行くのは、高校生の時に、実家へ行ったきりだった。
「香里、来た事無かったっけ?」
「うん・・・、初めてかな。高校生の時、実家には、遊びに行った事が有ったけど。」
「そっか・・・。店をやり出して、最近引っ越したんだ、ここに。」
淳は、タクシーの運転手に、運賃を払い、私の背中を押し、車から降りる様に、促した。
「三階なんだ、俺んち。」
淳の部屋は、三階建てのデザイナーズマンションの三階の角部屋だった。
私達が乗っていたタクシーは、ぴしゃりと扉を閉め、凄い勢いで、走り去って行った。
夜中の静かな住宅街に、人通りは全く無く、私と淳の二人だけが、狭い路地に佇んで居た―\r
「今日はな、お前と朝まで色んな話をしたくてさ。」
「あっちゃん・・・?私、リセットしたいの、全部・・・。」
「・・・、リセット?」
「日帰り旅行に行く筈だった、あの、高校二年生の夏休みに戻りたいの。」
淳は黙って、暫く空を見上げて居た。