矢口透は、雪の上に、長いポールを差し、その手応えを確認していた。
「ここは、2m位だな!そんなに深くない!」
その言葉を聞き、野崎博章がうなづきながら答えた。
「そうだな。この辺は、尾根に近いから風通しも良いし、日当たりも良いから、それほども雪は積もらない!」
2人は、山岳警備隊の同僚。
今日は、久し振りに、吹雪が治まって晴れ上がり、3000mを越える“恐神岳(きょうじんだけ)”の頂上迄が、はっきりと見えた。
今日2人は、早朝の7時に、3号目の休憩所を出発して、5号目の山小屋を目指した。
とは言っても、2人は登山を楽しんでいる訳ではなかった。
実は、丁度1年前の9月30日。
13人の観光客と、機長を含めた14人を乗せたセスナ機が、この恐神岳付近で行方不明になったのだ。