その時、一つのサボテンの影から、短弓とそれに矢をつがえて引き絞った逞しい男の腕がぬっと現れた。
音もなく飛んできた矢を、ジーナは素早く長剣で斬り捨てた。避けなかったのは後ろにいる美香と王子を考えてのことだろう。
真っ二つになった矢の、矢尻のついた方が美香の目の前に落ちた。矢尻からねっとりとした透明の液体が落ち、ジュッと音を立てて地面に吸い込まれたのを見て、美香はゾッとした。
「ジーナ、毒が…!」
「知っている。奴らの卑劣な戦い方などとっくにな。お前たちは先に行け。」
「でもジーナが、」
「わかった。」
返事をしたのは王子だった。驚く美香をよそに、立ち上がった王子がジーナと目線を合わせて無言で頷く。
ジーナはその時、初めて王子に笑顔を見せた。
「お前、少しは男らしくなったんじゃないか?最初はチャラチャラした髪色の情けない奴だと思っていたが。」
「失礼な。だいたい、髪は生まれつきなんだから仕方ないだろ。」
その会話の間にもチラチラと顔を出す男たちが無数の矢を放ってきたが、ジーナがほとんど見もせずに打ち落とした。王子も二本ほど剣で防ぐ。美香はようやく気づいて、ジーナの後ろにある岩から三人を覆い隠す岩壁を想像し、さらに本数を増して一斉攻撃を仕掛けてきた男たちの毒矢から全員を守った。
「なんだあの壁は!?」
「女め、砂漠の侵入者を連れ歩いてどういうつもりかと思えば、あれは光の子供だったのか…!」
男たちの様々な驚きの声が岩壁の向こうから聞こえてきたが、ジーナも王子も無視した。ジーナはバシッと王子の背中を力いっぱい叩いた。王子は悲鳴を上げてよろめく。
「美香を頼んだぞ、王子。」
「……手加減してよ…。それに、わかってるってば。」
ジーナは岩壁に沿って真っ直ぐ腕を上げ、ある一定の方向を示した。
「あちらに行けば赤いサボテンが見えてくる。そこがこの領域の出口だ。痛いと思うだろうが、簡単に通り抜けられるから安心しろ。迷いなく行け。――見送れなくて悪かったな。」
ジーナは、未だ座り込んだままこちらを上目遣いに見上げている美香の頭に手を置いて言った。美香は慌てて立ち上がりながら必死に言った。
「で、でも、私の光の子供の力があれば、ジーナを助けられるかも…!だから……!」
「美香、」
ジーナの声はかつてないほど優しく柔らかだった。