考えれば簡単だった、着替え中を覗かれたのにもかかわらず、大声を彼女は発しなかった。
俺と彼女は向き合っている、しかし俺の姿は見えていないだろう。
―――目が見えないのだから。
見た感じ、薄緑のパジャマ姿の幽霊。
肩に掛かっている黒髪、細身の体。
目は見えないが美人に分類されるだろう。
「………あの〜、すみません」
幽霊が話しかけてきた。
間違った、篠原らしき人物が話しかけている。
「何だかさっき『スミマセン』って聞こえてんですけど、どうかしたんですか?」
何か話しかけている…………えっ、俺!?
「えっと…その、」
シドロモドロ、見えていないのにずっとこちらを見ている気がする。
「ごめんなさい!!」
「えっ?」
「あの着替え覗いちゃって……いや!決してワザとじゃなくて」
「……………」
応えは返って来ない、きっと睨んでいるんだろう。
「………………………プッ、アハハハハハハ」
「えっ?」
笑っている?
何で?
「アハハハハハハ、はぁはぁ……お腹痛い」
「……………あの〜」
「ああ、ごめんなさい。貴方が随分と真剣なものだったから、本気で笑っちゃった」
意味不明。
「着替えを見たぐらいでそんなに謝らなくても、減るもんじゃあるまいし…」
理解不可能。
「ワザとじゃないんでしょ?だったらいいじゃない」
貴女はどこの美少女ゲームのヒロインですか?
いやいや、本当にこんな人が居るなんて……
思考は中断させられた。
「ぐッ!」
吐き気が襲いかかる。
口を手で押さえて洗面台に向かう。
まともな食事を取っていない胃から吐き出せるものはなく、胃液か体液か分からないのが喉から排泄される。
それと同時に脇腹に痛みが……
「大丈夫ですか?」
えっ?
背中を何かが撫でている。
「お医者さん呼びましょうか?」
俺に何かが話しかけてくる。
吐き気がする。
病気の所為だ。
盲腸炎の所為じゃない。
触るな、
触るな、触るな、触るな
触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな。
吐き気がするから触るな!!