今の胸の苦しみは誰にも理解仕様がない。
ふっ、と考えては私は自分の考えの甘さに嫌気がさしてしまうのです。
しかし、街行く人の考えている悩みを思うと私の胸の中に突っ掛かっている得体の知れない『何か』の方が重大ではないだろうか、と考えているのです。
友達が居ない訳では決してありません、家庭だって非常に普通、それなりに毎日を送って居ります。従って、私を端からみたら不幸の不の字だって感じさせないのでしょう。しかし、今私は得体の知れない『何か』で日々惑い、それに負けない様に至って明るく振る舞って居るのです。
それが何かは私にはちっとも分かりません。
唯唯、私は日々辛いのです。
そこまで云うと目の前の話すのを辞めて終った。気がすんだのか、ふぅっと溜め息を吐いて、煙草に火をつけた。
この女が余り好きでは無かった。
何時もこんな贅沢な悩みを吐いては俺を不愉快にする。
大体、得体の知れない何かで悩んでるとは仕合わせものではないのだろうか。
大体何故俺はこの女に相談等されているのか、さっぱり解らなかった。
嗚呼、俺は日々こんな贅沢を持て余してる様な女よりももっと大層な悩みを抱えて居るぞ。その日暮らしの俺にとってはこの女は随分と高尚な悩みを持って居る。大体、その下で悩んでる人間が何人居ると思って居るのだ。
そう思った処で頭の動きが少しばかり停止した。
考えたくは無いが…
少しばかりか動揺したが、悟られ無い様に顔を上げると女が笑って居た。気味の悪い笑いが俺を見ていた。
ねぇ、世の中で仕合わせな人ってどれ位居るのかしら。
そう言うと女は立ち上がった。
貴方に話すと何だか私って仕合わせなのではないかと思も得るのです。
女が居なくなった後、俺は苦笑した。
仕合わせ、か。
俺は携帯電話を取り出し、より不仕合わせな人間を求める様に電話を掛けた。