高校生の僕にとって、彼女を守ることは簡単なことではなかった。
僕の彼女は、とても重い病気にかかってしまった。
手術にはとてつもない大金が必要らしい。
当然そうなると、僕にも、彼女の家族にもお金が用意できず、手術は行えない。
僕は絶望の涙を流した。
途方に暮れて街をふらふら歩いていると、怪しげな男に声をかけられた。人気のない場所だった。
男は言う。
「君、お金のことで困っているだろ?そんな君にいい話がある」
僕がその言葉を無視してその場を立ち去ろうとすると、男は行く手をふさいで話を続けた。
「君の記憶を全部、私に譲ってくれないか。高値で買ってあげよう」
それから男はおおよその金額も口にした。
それは、彼女の手術に必要な額に相当した。
「ほ、本当ですか」
僕は男を疑ったが、僅かな希望が生まれるのを、胸に感じた。
「もちろん。いい話でしょう?」
しばらく考えた後、僕は決心した。彼女のためなら…。
「じゃあ、お願いします…。僕の記憶を売ります!」
男は小さく頷いて、僕の頭に変な機械をかぶせた。
「お金のほうは、君の彼女の家族に直接渡しておくからね」
なんでそれを!?と思ったが、男の顔を見るとなぜか、不思議な気はしなかった。
そして次の瞬間、僕の頭の中は真っ白になった。
僕は記憶をなくした。
大好きな彼女との幸せな日々も、
友達と楽しく語り合ったことも、
大切な家族との温かい毎日も、
良いことも、
嫌なことも、
辛かったことも、
嬉しかったことも、
全部、忘れた。
なにもかも、忘れた。
これもすべて、彼女のためだ。
―続く―