ジーナは諭すように美香の両肩に手を置いた。
「お前に戦いは無理だ。それは自分が一番よくわかっているだろう?」
何気無い一言だったが、その言葉は美香を打ちのめした。美香は呆然と目を見開いてジーナを見つめる。
ジーナは何を言っているのだろう?美香はこれまでずっと一人で戦ってきた。舞子の恐ろしい想像たちを相手に、たった一人で。その美香を、ジーナははっきりと否定したのだ。その時美香の心に蘇ったのは、あのどうしようもない無力感だった。疲弊して限界の淵に追い詰められ、心が折れそうになった時のあの感覚。どうせ自分一人の力では何もできない、舞子を守れない……。“真セカイ”で何度も味わってきた酸を舐めるような苦い想い。
その瞬間、美香の胸に膨れ上がったのは、これまで必死で抑えてきた激しい怒りだった。
「……ジーナは私が弱いというの?」
美香の肩の震えを感じ取り、ジーナは濃い眉を驚いたように跳ね上げた。
「美香?」
「私じゃ確かに力不足かもしれないし、戦いに不向きかもしれない。けど馬鹿にしないで!私は今までずっと一人で戦ってきたのよ!今だってそう、ちゃんとジーナの役に立てるわ!戦ってみせる!」
美香の強く輝く瞳は、暑く揺らめく大気を凌駕するような熱を放っていた。睨むようなその目は、しかしどこか脆い。
「美香ちゃん……。」
美香をなだめようとする王子の声さえ、今の美香には同情にしか聞こえなかった。苛立ちに歯を食いしばった時、岩壁をするりと回り込んだサハールの屈強な男たちが、手に手に武器を振り上げて両側から襲いかかってきた。
「!!」
右側にジーナ、左側に王子が走った。ジーナの方の男は若く、肌をむき出しにした格好で、真っ黒に日焼けしていた。頭に布を巻き、残忍な喜びに歪んだ顔はのっぺりと平たく、黄色い歯を見せてにいっと悪魔めいた笑みを浮かべている。彼は二本のシミターで鋭くジーナに斬り込んだ。ジーナは応戦しながら、邪魔なマントをバサリと脱ぎ捨てた。二人が戦っている所に、さらにもう二人、剣を持った男たちが乱入してきて、ジーナはたまらず最初の男の鳩尾に肘鉄を叩き込み、よろめいた隙をついて走り出した。三人の男たちは裸足の足で地面を蹴って後を追う。
ジーナの方を向いていた美香はジーナを助けようと走りかけたが、その時王子の叫び声が聞こえて思わずたたらを踏んだ。