「お店、今日は暇だったの・・・。だから、いつもより早く帰れてね。連絡してから、来ようと思ったんだけど。」
「ビックリしたよ、急に。セール終わったばっかだし、さっきまで、雨だったから、ウチも、暇だったよ。あと、夜間金庫に入金したら、帰れるから、ちょっと待って・・・。」
レジを閉めた淳は、他の従業員と共に、通用口の戸締まりをした。
「飯、食いに行くか?」
淳は、従業員達に、何か話をし、先に通りに出ていた私の元に小走りで駆け寄って言った。
その時―\r
「淳さん・・・。」
淳の彼女が、背後から、声を掛けた。
「何?お前、帰ったんじゃ無かったのかよ・・・。」
「香里さんと帰るの?」
「そうだよ。何で?あいつらと飯食って帰れよ。」
淳は、少し先に立って居た、他の男性の従業員を指差し、彼女にそう言った。
「私・・・。さっき、香里さんにも言ったんだけど・・・。まだ、淳さんの事、諦めて無いから。」
私に対する、彼女からの宣戦布告の様にも聞こえた。
「お前なぁ・・・?彼氏出来たんだろ?そんな事、彼氏が聞いたら、泣くぞ?ん?」
淳は、冗談を受け流すみたいに、彼女の肩を二度程、叩いた。
「彼が、あまりしつこいから、付き合っただけ。私、やっぱり淳さんの事・・・。」
彼女は、一瞬、私に睨み付ける様に、視線を送った。
「俺はな、七星。香里の事が好きなんだよ。お前とも、何度も話しただろ。」
気不味そうに、従業員は、一部始終を見届けて、「淳さん、お疲れ様でしたぁ。」と小声で言い、逃げる様に去って行った。
その光景を真の当たりにして、私は、どうして良いのか分からなかった。
「嫌・・・。私、また腕切っちゃいそうなの。忘れようと思ってたのに、目の前に香里さんが現れたら・・・、私、自分を保って居られ無いよ。」
「七星・・・。俺が悪い。でもな、もうお前とは、戻れ無いんだよ。解ってくれよ。」
淳の言葉を聞き、彼女は、その場にしゃがみ込み、号泣した。
「あっちゃん、私・・・。突然来ちゃったから。今日は、帰るよ。」
私は、思ってもいない事を、口走ってしまった。
「香里、ちょっと待て。お前は帰るな。」
「いや・・・、でもね。」
「俺の部屋の鍵・・・。渡しとく。先に帰っててくれ。七星を送ったら、直ぐに帰るわ。こいつ、また何するか解んんねぇからよ・・・。」
淳は、パンツのベルトループから、鍵の束を外して、私に手渡した―\r
「判った・・・。」
淳は、彼女の肩を抱え、直ぐ前を通り掛ったタクシーを停めて、車に乗り込んだ―\r