「じゃーな。気つけて。」
勇はあっけらかんとした表情でそう言うと、左手を少し上げて反対のホームへ行ってしまった。
「何なのアイツ。自分だけ大人ぶっちゃって。」
私はホームへ出て、反対ホームで電車を待つ勇に向かって叫んだ。
「アホ勇!」
叫んだ瞬間、勇の顔が鬼のようになったが、間に電車が着たので飛び乗って逃げた。
「また遭うこともなかろう……。」
その日の朝、当たり前だが遅刻して、先生に『バツとして明日は校門で挨拶運動しろ』と言われた。
次の日の朝。いつもより1時間早く玄関を出ると、嫌な予感がした。
駅へ向かって歩きだすと、その予感が的中した。
前方にスポーツバック野郎を発見……。
私は気づかれないように少し後ろを歩いた。
住宅の角を曲がると、驚きの余り声すら出なかった。勇がこちらを向いて立っていた。
「び……っくりした。」
「何こそこそしてんの?カーブミラーにしっかり映ってたけど。」
……恥ずかしすぎる。
私がモゴモゴ言ってると、勇がまた隣に来た。
そして頭を小突かれた。
「なんでオレが『アホ勇』?」
少し上から睨まれた。
何も言わずに首をかしげると、
「まぁ、いいや。」
そう言って許してくれた。
本当に勇は大人になってる。まだ子供な私とは違いすぎる。