バァン!!
河野が畳に叩き付けられた。
「一本!!それまで」
整列し翔星の選手に手が上がった。
河野が戻ってきた。
「すいません。」
「気にすんな。まだ終わってねぇよ。」
修二は河野を励ますように言った。
現在、0-2で翔星学院に負けている。
先鋒の新藤は頑張ったが、有効一つを取り戻すことができなかった。
次鋒の河野は開始1分ほどで一本負け。
それでも河野は頑張っていた。
実際、数年ぶりに柔道を始めて県トップ高相手に1分ももったのだから十分だろう。
しかし、もうあとがない。次の中堅戦をおとせば、その時点で本山高校の負けが決まってしまう。
中堅の悠の相手は重量級の選手だ。
体重差だけで見れば、勝てる見込みがない。
河野に励ましの言葉をかけた修二も、事態の悪さを本心ではマズイと感じていた。
相手の中堅が出てきた。
悠も向かおうとした。
「修二。任せとけよ。絶対最高の舞台作ってやるからさ。だから、賢ちゃんも頼むよ。」
悠が笑いながら言った。
「あぁ、悠がつないだら俺もつなぐよ。絶対。あとはうちの大将にまかせようぜ。」
賢之助が修二を横目で見ながら言った。
それを聞いた悠はまた笑ったが、試合畳に向かったときにはもう笑顔は消えていた。
修二はそれほど真剣な悠をほとんど見たことがなかった。
おそらくこの試合を見ている人のほとんどが翔星の勝ちを疑わないだろう。
体重も身長も悠は劣っているし、相手は名門翔星の看板を背負っているからだ。
だが、修二には今、悠がとても大きく見えた。
もちろん錯覚なのだろうが、そのことは修二に悠が言った『つなぐ』という言葉への信頼を生んだ。
両者の礼。
「はじめぇ!!」
審判の声と共に試合が始まった。