『あなた、どうするつもりよ?!
リョウとユウ。2人共、今年は受験生なのよ?!
そもそもあなた、私に何も相談してくれなかったじゃない。
1人で決断して、事後報告じゃ、納得出来ないわよ!!』
今回ばかりは、さすがの妻も、感情的に俺を責める。
次長と課長は、結局俺を説得出来ずに帰って行った。
アイツらも、これで肩の荷が下りただろう。
これで“引き留めた”と言う事実が成立した訳だ。
パートのババァ共が、アイツら会社側に同情する様に仕向ける目論見が、見え見えだ。
明日には、俺はパートのババァ共に、こう噂されているはずだ。
“出来ない部下を持つ上司も苦労するわよねぇ。”
噂したけりゃ、するがいい。
俺はもう、こんなクソみてぇな会社にいる気は全くない。
『あなた、聞いてるの?!
リョウとユウに、進学を諦めろとでも言う気?!』
妻は、普段はおとなしい女だが、1度感情的になると手に負えない。
『そんな事言っていないよ。
これからの事を君と話し合いたいと思っていたんだ。
無責任な事はしたくないからね。
ただ、俺は、何の考えもなしに、会社を辞めた訳ではない。』
これは紛れもない事実だ。
現場へ下ろされてからは、ずっと、辞表をカバンの中に忍ばせていたのだから。
俺がこの会社を辞めるのも、時間の問題だったと言う訳だ。
『何の考えがあるって言うのよ?!
この御時世だもの、その年で、正社員として再就職するなんて無理よ!!』
『大学時代の友人が、システムエンジニアをしていてね。
誘われているんだ。』
長く畑違いの仕事をしてきた俺が、元々は、システム開発課にいた事など、
きっと、妻も忘れているだろう。
『あら。あなた、そんな事が出来たんでしたっけ?!
忘れてたわ。でも、あなたがシステム開発課を異動になって、何年も経っているのよ。
今のあなたに出来るのかしら?!
どこの部署へ行っても、まともに続かないじゃない!!』
俺が妻と別れるのも、恐らく時間の問題だろう。