矢口たちは、北側の谷を、一つずつ捜索することにした。
雪が積もったとは言え、昨日の今日である。
もし墜落したのなら、何らかの残骸が有っても良いのだが、それが何一つ発見出来ない。
一つの谷の万年雪は、学校のグランド程もある。
捜索隊は、積もった雪を足でかき分けながら、滑らかな雪渓の表面に、セスナ機が接触した傷が無いかを、探して歩いた。
「この辺は、3m位(万年雪の深さ)だな」
野崎は、地図を広げて言うと、矢口が口をはさんだ。
「いや、5mは有る。そしてその下は更に10mの谷だ!」
「お前は、又そんな事を言うのか?」
役所が作った地図を頼りにしている野崎と、それを否定する矢口は、何時も“恐神岳”の地形図の事でぶつかった。
恐神岳は地形が複雑で、尾根と谷が、幾重にも重なり合っている。
まして北側は、万年雪が覆い、正確な地図など書ける訳がなかった。