その日の夕食は、俺の嫌いな、チンゲン菜の炒め物だった。
『おい。ユキエ。
俺がチンゲン菜が食えない事、知ってるだろ?!』
妻は、少し苛立っていた俺の顔を、じろりと睨みつけた。
『あら?!そうだったかしら?!
嫌だったら食べないでください。後で片付けますから。』
少し膨れっ面の妻の顔を、今度は俺が睨みつける。
『まぁいい。今は、そんな事よりも、父さんからリョウとユウに話さなければならない事があるんだ。』
テーブルの向かい側に2人並んで座る、リョウとユウに、俺は毅然とした態度で言った。
いつもなら、夕食は各自バラバラの時間に済ませる事が多い我が家だが、
今日は珍しく、家族全員揃っていた。
『あ???何???
親父。もしかして、リストラの話?!
それなら知ってるよ。さっき会社の人が来てただろ?!』
リョウが、俺とろくに目も合わせずに言った。
『親父、リストラされたんでしょ?!
どうすんの?!
リョウ兄と俺、来年早々受験じゃん?!
大丈夫だよね?!』
弟のユウも、兄に続いて俺に不安な表情で尋ねてくる。
『あぁ。リョウ、ユウ。父さん実はリストラされたのではなく、自分で退職願を出して会社を辞めたんだよ。
進学の事は2人共、心配しなくていいから、安心して勉強しなさい。
父さんも、きちんと次の就職先の事は考えているから、心配しないでくれ。』
今の俺が子供達に言える言葉は、それだけだった。
とりあえずは、仕事を辞めた事を、きちんと伝えなければならなかったのだ。
『ふぅん。ならいいけど‥‥。』
『ご馳走様。』
俺の言葉を聞き、2人共、ひとまず安心してくれた様だった。
難しい年頃の息子達に、とりあえずは分かってもらえた事に、俺は少しホッとした。