気がつけば僕は彼女の事を考える時間が増えていた。
帰りの挨拶が終わったばかりの教室。
まだざわめきが残っている。
「なぁなぁ!椎矢って可愛くね?」
聞えて来たのはすぐ傍にいた男子2人の話し声。
ななの名前が出たからすぐに耳がそっちの会話を盗みに向かう。
「ななかぁ。お前じゃ無理だしょ?」
「無理かぁー??アイツ優しそうだから強引にしたらハイって言いそう。」
「無理無理。あーゆータイプ逆にこっちが巧く丸めこまれるから。」
「でも可愛いよなぁ。」
何故か心が疼いた。
そう彼らは恋愛を好きなように出来る。
だけど僕は・・・
え?僕は・・・恋愛?僕が・・・?誰に?
ななに・・・?
そう思った瞬間少しだけ教室が違うように見えた。
知らなかった、僕は彼女に。
イケナイイケナイイケナイイケナイイケナイ!!
こんな思いすぐに捨て去らなければ。
イケナイ。
そんな時に限って彼女は近い。
放課後の教室掃除に残ってくれるのはななだけだった。
皆、サボって行ってしまう。
この荒れた教室を彼女が汚しているわけなんてないのに。
彼女はそれでもいつも懸命に掃除をしてくれる。
「先生?先生!?」
物思いに耽っているとななが僕を覗き込んだ。
一瞬ドキっとする。
「あたしチリトリやるんで、ゴミはいて下さい。」
ななそう言ってしゃがみ込む。
愛おしい。
愛おしくて泣き出しそうだ。
「先生、奥さんと子供いますよね?」
「え・・・う・・・うん。」
「先生は家ではパパなんですね。何か解んないなぁ・・・。」
彼女とはなるべく家庭の話なんてしたくなかった。
何故だか。
「解んない?俺が父親なのが?」
「うん。だって先生優しそうだもん。」
「えっ?・・・」
彼女の意味深な言葉。
その意味を僕が知ったのは突然の事だった。