標高が高い冬山に二人の男が絶壁の氷壁に挑んでいた。
天候が思わしくない中のトライだった。
上にいる男が合図を送ると、ザイルに繋がれた男が固い氷にピックをかけながら登っていく。
命は杭に通された登山用の綱のみだ。二人の呼吸が重なる。
下にいた男が足を掛けそこねた。上にいる男の手に握られたザイルが擦るように引っ張られる。
「エイ!!」
ザイルの動きが止まった。必死にこの命を失うまいと、強く男の手に握られていた。
「コータ、」
下から呻くような声が聞こえる。
その声を聞き、雷華光太郎(ライカコウタロウ)は安堵の息を吐いた。
ザイルの横揺れが徐々におさまっていく。
エイと呼ばれた男はピックで全体重を支えていた。
間宮榮(マミヤサカエ)は思わず腹の辺りを触った。
あった。
小さい瓶に入れられた、白い灰。
それは、俺達二人が愛した女の遺骨の一部を灰にしたものがはいっていた。
「ミミ、あと少しで星になれるぞ。」
榮は話しかけた。
ミミ、唯一無二の存在だった。出逢った瞬間に運命を感じた。
病を抱えながらも生き切った彼女、川合美弥香(カワイミミカ)の話をしよう。