ある日の午後、さんさんと照りつける太陽を恨むように人々が歩いている。人々、と言ってもそんなに多くはない。建物はまばらで、聞こえるのと言えばセミの声くらいである。つまり、ここは中心街からちょっとばかり離れた郊外なのだ。ほっそりと流れる川の河口にその建物はあった。
ガチャ、バタン。「来賓室」と書かれた部屋からひとりの男が出てきた。歳は30代なかばほど。太り気味ではあったが健康の範疇だろう。腕には「K新聞社」の腕章が。その男は廊下を歩き始めた。
「あ、K新聞社の方ですね」後ろから呼ばれる声。振り返ってみると警備員が立っていた。男が「ああ、どうも、こんにちは」と返す。「いや、ごくろうさまです。なにぶんこの精神科病院は広いものですから、お困りでしょう。さあさあ、ご案内しましょう」「そりゃどうも、いや、しかし私は・・・」「いやいや、遠慮なさらずに。警備のついでに案内するくらいたやすいことです。この病院は患者にも行動の自由がありまして、危なっかしいモンなんです。とは言っても、不思議とそんな事件は聞きませんがね」男は微笑を浮かべ、一緒に歩き始めた