陽太はこの1年で実は龍吾の携帯の電話番号とメールアドレスを交換していた。
行こう。
陽太は決意をした。
「じゃあね。」
「じゃあね。みーくん。」陽太はみーくんと別れるとすぐ携帯を開いた。そして龍吾に…
『ちょっと、石田中で待ってて。』
とメールした。
石田中前。
中学3年になった龍吾は、背もぐんと伸び、体つきもしっかりしてきた。
「どうした陽太?」
陽太と待ち合わせをした龍吾は、家へと誘った。
「おじゃまします。」
「ところで、何の用?」
「みーくん、忘れてないよね。」
陽太の一言に黙り込む龍吾。
「……。」
「今、みーくんは、お母さんが死んじゃって、お父さんと生活している。お父さんは少し心を入れ替えたって。でもそのせいでクラスの人から、親連れてこいとか言われていじめられてる。みーくんは柏の高校に合格したから、この年で柏に引っ越すって。」
「えっ…?」
「最初は栃木に引っ越すことも考えてたらしいけど、高校のせいで、石下じゃ遠いから、柏に引っ越すって。」
「あぁ。そうか。」
龍吾は力なく納得した。
「後悔しないの?それでいいの?」
その言葉に龍吾は
「みーくんと話すことなんてもう何もねぇよ。」
「龍吾!おまえの本当の気持ちは違うだろ!」
「そんな話するんだったら帰ってくれ。」
「龍吾…」
「後悔はしてねぇ。みーくんがオレを…」
「分かった。」
陽太はとぼとぼと帰るしかなかった。
陽太が帰った後、龍吾は携帯をぼんやりと見つめた。「みーくんと話すことって…何もねぇ…か…」
携帯を開いても、電話する勇気もなかった。
「オレはどうしたら…」
すると姉ちゃんが、
「龍吾、お客さん。」
「オレに?誰?」
「岬くん。」
「えっ…」
玄関をあけると
「久しぶり。」
みーくんは全然龍吾に目を合わせない。
「おぅ。久しぶりだな。」「別に話さなくてもいいと思ったけど、僕は柏市に引っ越す。」
機械のように淡々と話している。龍吾は変わったみーくんに表情が曇る。
「うん、聞いた。」
「聞いたならいいや。じゃ。」
と言ってすたすたと帰っていった。
このままじゃ、みーくんが引っ越してしまう。
何も言えないまま、時間だけが過ぎていく。
「オレもみーくんも…これで後悔してないって言い切れるのかよ…」
龍吾の胸は締め付けられていた。