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阿部和義  2009-09-06投稿
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「ママ……また、音がするよ」
 息子は天井を指差している。たしかに人が往来するような物音がしている。あの日以来、上の部屋は空いているはずなのに……。

 あの日、子供会の旅行で訪れたスパリゾートハワイアンズの帰り道。私たちの乗っていたバスは常磐道を南下していた。
 遊び疲れた子供たちに、保護者の殆ども眠りに落ちていた。最後に目にしたのは、日立中央インターまであと何キロという標識だった。急ブレーキを踏んだのだろう、突然シートベルトがきつく腹部を締めつけた。次の瞬間、物凄い衝撃音とともに体が大きく揺さぶられる。何が起こったか理解する間もなく、目覚めたのは病院のベッドの上だった。
 バスと大型トラックによる衝突事故……。
 幸いにも私たち家族は命には別状はなかったのだけれど、アパートのすぐ上に住む小澤さん一家は全員が亡くなってしまったことを入院中に知ることとなる。小澤さんの一人娘である美姫ちゃんとは、息子が同級生ということもあって家族ぐるみのお付き合いをさせてもらっていた。
 あの日、もしも座っていた座席が左右違っていたのなら……。

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