退院してきたその日に、上の部屋からの物音はしていた。まるで事故なんてなかったかのように……。
誰もいないはず。小澤さん家族は亡くなっているのだ。そんなことはないだろうが、まさか……。
ピンポーン!
チャイムが鳴ったあと、聞き覚えのある甲高い声が耳に入ってきた。
「小澤ですけど、岡田さんいますか?」
お、小澤さんの奥さん!? どうして? 小澤さんは亡くなってるはずでは……。
「岡田さん! いらっしゃいませんか?」
声はだんだん大きくなっていく。
「太郎くん、いるの? いるなら出てきて!」
美姫ちゃんの声もする。これは、あの世から小澤さん一家が迎えに来たに違いない。出て行けば、きっと私たちも天界に連れて行かれるのだ。
「ママ、怖いよ……」
怯える息子を強く抱きしめながら、私は声がしなくなるのをひたすら待ち続けるしかなかった。
「やっぱりいるわけないわよ。岡田さんたち亡くなったんだから」
「美姫、本当に見たんだよ!」
「窓に人影が見えたなんて、気のせいよ。気のせい」