『ちょっと用事あるから来て』
夜中の二時頃、ドアの向こうから声をかけられて目が覚めた。兄の声だった。夕食の時、兄がいなかったので今帰ってきたのだろう。
『用事って何?』俺は夜中に急に起こされたので機嫌が悪かった。
『いいから早く来て』
『そっちが部屋に入って来ればいいだろ』
俺は動くのが面倒だったので兄を部屋の中に呼んだ。
『貸してもらいたい物があるんだ』
『だったら部屋に入って来いよ』
『いいから早く来て』
『貸してもらいたい物って何だよ?』俺は苛立ちを感じながらも訊ねた。
『いいから早く来て』
『明日にしろよ。俺、寝るから』
同じことしか繰り返さない兄に嫌気がさしたので、俺はさっさと寝ることにした。兄の声はもう聞こえなくなった。
次の日の朝、母と父と俺で朝ご飯を食べていると急に電話が鳴った。母が電話をとると、母の顔が青ざめた。そして、母が震えながら俺と父に言った。俺と父は、母の言葉を聞いて青ざめた。
その内容は、うちの兄が両手・両足をバラバラに切断された状態でゴミ捨て場から見つかったとのことだった。死亡推定時刻は夜中の二時頃らしい。
『貸してもらいたい物ってもしかして……』