子供のセカイ。60

アンヌ  2009-09-09投稿
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唯一左手に立つ壮年の男だけがどっしりと冷静に構えていて、幅広の剣を持っていない方の手で、ジーナに斬られた頬の血をゆっくりと拭っている。こいつが一番厄介だな、と、ジーナは見当をつけた。
しかしそんなことはおくびにも出さず、ジーナはわざと高飛車な態度で大きく笑った。
「逃げるのが上手い?お前たちの真新しい傷は、私の攻撃の妙を示してはいないのか?」
「るせえっ!黙れっ!!」
完全に頭に血が昇ったらしい若い男が、剣を振り上げジーナに斬りかかってきた。ジーナは今度は逃げるのをやめ、自らの剣で攻撃を受け止める。若さ故の力に任せた猛攻だったが、如何せん、まだ剣の技術はそれほどではなかった。数回打ち合った剣の響きだけでそのことがわかり、ジーナは続いて飛びかかってきたターバン男の方を重視して剣を交える。
壮年の男はそれを見るともなく見ていたが、実際はその瞳の動きにジーナは一番注意を払っていた。彼の目はジーナ達を通り越し、丸く開いた空き地の向こう側の境界をなぞるように目で追っていた。その口元が笑みに彩られる。
若い男の利き腕を固いブーツの底で蹴り飛ばし、左から脇腹に向かって流れるように迫ってきたシミターを剣で受け止めながら、もう片方のシミターを蹴った足を振り回す事で牽制する。ジーナは両利きだった。二人くらいの相手なら、たとえ男と女の差があろうと余裕を持って戦うことができる。単純な力比べなら負けるかもしれないが、両手で剣を扱う器用さや瞬時に反応し、思った通りに動かせる体の柔軟さがいつでもジーナを助けていた。
(そろそろだな。)
ジーナは壮年の男の唇が微かに動いたのを見逃さなかった。読唇術を少しは心得ているが、男の場合速すぎて何を言っているのかわからない。だが、伝える相手が空き地の向こうのサボテンの群れに隠れていると知ることができただけでも収穫だろう。
それもかなりの数だな、とジーナは内心ほくそ笑んだ。実はサボテン地帯にサハールの荒くれ者たちがいくつもの集団で住み着いていることは風の噂で知っていたのだ。美香たちの前では今日初めて知った風を装い、それ相応の演技までしてみせたが。そしてジーナは美香たちを領域の出口に送るという大義名分の影で、後ろ暗いことを計画していた……。



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