それからしばらく打ち合いを続けている内に、遥か背後に感じていた相当数の人間の気配は、ジーナを包み込むように広がった。しかし未だにあちらからは仕掛けてこない。自分が疲弊するのを待っているのだ、と気づいたジーナは、こちらから行動を起こすことにした。
ためらいはなかった。バックステップで若い男の攻撃からひょいひょいと身をかわす。不意に足元の小石につまずいたように見せかけて体のバランスを崩してみせると、男は簡単に引っ掛かった。一気にとどめを刺そうと、剣の振るい方が大振りになる。その隙をついて、器用に低い姿勢でバランスを取り戻したジーナの剣が、容赦なく若い男の心臓を貫いた。
「…がっ、あ…!」
断末魔を上げる男を下から睨み上げたまま、素早く剣を引き抜く。返り血が飛び散り、顔や白いシャツを赤く染め上げた。しかしジーナは微動だにせず数歩後ろへ下がった。若い男はどうっと前のめりに倒れた。血の染みが地面に広がる。ターバン男は雄叫びを上げたが、警戒しているのか、すぐに飛びかかってきたりはしなかった。
ジーナは無表情に顔を上げると、剣を軽く振って付着した血を払った。狩りに成功した獣のように、獲物を仕留めた喜びがそっと背中を這い登る。しかしそれを自覚してはいけない事を知っていた。まだ人間らしさを捨ててはいけない。それは大勢の人間がぶつかり合う戦争の時だけでいい――。ジーナがようやく高ぶる心を鎮めた時、壮年の男が片手を空高く振り上げた。
「やっとお出ましか……。」
思わず笑ったジーナは、さっと振り返って事態を確認した。思った通り、サボテンの影から日に焼けた肌をむき出しにした人々が続々と現れ、空き地を埋め尽くしていった。中にはちらほらとジーナのような女戦士もいたが、その大半は男だった。仲間を殺された怒りに顔を歪める者も、ジーナを大人数でいたぶれることに興奮を抑えきれず、にやついている者もいる。
ジーナは、ざっと百名ほどのサハールの人間がジーナを包み込むように陣を組むのを、ただ突っ立ったまま傍観していた。
「これで全部か?」
ジーナは壮年の男、ただ一人に向けて声を放った。彼はそこで初めて表情を動かし、訝しげに眉をひそめた。
「……俺の見間違いか?これだけの人数に囲まれてんのに、アンタの顔はやけに嬉しそうに見えるぜ。」
ジーナは凄みのある笑みを見せた。