ジーナが不意に声を立てて笑い出したため、サハールの荒くれ者たちは少なからずぎょっとした。気が触れたのではないかと思われるほど、ひどく愉しげでタガの外れた笑い声だったからだ。
「やはりお前たちは頭が足らぬようだな。」
ピタリと笑いを止めると、ジーナは低い声で言った。変に静まり返ってしまった空間を侵食するように、その声はどこか不気味に響いた。
「……どういうことだ。」
唯一冷静な壮年の男は、リーダー格なのか、ジーナの言葉に単純に反応して声を荒げかけた隣の男を制しながら呟いた。他のサハールの者たちも、ジーナに突き付けている武器を握る手に力をこめる。
ジーナは欠片も動揺しなかった。
「お前たちは考えてみたこともないのか。騎士であるとはいえ、なぜ私のような者が、たった一人でこの広大な砂漠の管理を任されているのか。どう考えても無理があるだろうに。」
「アンタの愚痴なんて聞きたくねぇな。そんなことは俺たちの知ったこっちゃねぇ。」
「……フッ。だから馬鹿だというのだ。」
「んだと?」
ジーナのすぐ右側で槍を構えていた男が、その先で軽くジーナの肩を小突こうとした。リーダーの指示が出ていないため、ただの脅しのつもりだったのだろう。
「おい姉ちゃん、あんま調子乗ってっと痛い目見る……、」
ぜ、と言いかけた男は、そこで槍が動かないことに気づいた。あともう少しでジーナの肩に切っ先が触るというのに、数センチを残したまま動かない。どんなに力を込めても動かせない。ジーナはもちろん触れていないし、そちらを見てすらいなかった。
「一人にその場所を任せるということは、その一人にそれ相応の力があるということだ。」
ジーナは何事もなかったように説明を続けた。接着剤で固定されたように押しても引いてもびくともしない槍に、男が焦って叫ぶと、周りの者たちも騒ぎ出した。試しにジーナに剣を突き出し、同じ目に合って悲鳴を上げる者もいた。
壮年の男は、騒ぎを横目にしながら、嫌な汗が背中を伝い落ちるのを感じた。
「つまり、何が言いたい?」
しかし本当は聞かずともわかっていた。長年の経験からくる勘が警告を発している。ジーナから溢れている強大な威圧感は、尋常ではなかった。彼女を中心に風が巻き起こり始めていた。
「つまり、だ。」
ジーナは仮面のような顔で告げた。
「私は、魔女だ……!」