僕が荷馬車から降りたのは、あれから一時間後の事だった。着いたのは、雲がより一層近い高原の丘で、家がいくつもあった。
「牧場で働かされたことはあるか?」
「え?牧場?」
僕の腰は抜けてしまった。もっと危ない所かと思っていたが、思った以上に安心出来て心地好い場所だ。
「…無いか。なら、仕事を覚えてもらうしか無いな。まずは家に入れ」
何が殺人鬼だ。ただの放牧業者じゃないか。今思い返せば、孤児院の子達にからかわれていたんだろう。新入りだから何も知らないと思って。
「早く来い。孤児院に帰すぞ!」
ぐずる僕にバフは怒鳴り声をぶつけた。ビクリと反応した僕は、殺人鬼じゃなくてもやっぱり怖いと思いながらついて行った。
孤児院には、もう戻りたくなかった。あそこには居場所なんてないのだから。
僕はバフの導く家のドアに、僕の新しい居場所を感じた。
ここからがスタートなんだ。