6.平穏な時間
望代「ここよ。さぁ入って。」
そこには眠るよう横たわっている中年男性が居た。
香「お父さん…」
ベッドに横たわる中年男性は伊井 香 の父親だった。
小さい頃に見た父親の面影と殆ど変わらなかった。
望代「あの秘密の情報機関を作ったのは彼よ。」
香「えっ!?あの能力の集団は臨(リン)…いえ、絵理さんが作ったんじゃないの?」
望代「違うわ。アナタのお父さんが能力を持つ人間を集めたのよ。
絵理が一番最初に会ったんだけど…その時には既に植物状態だったわ。
アナタのお父さんはテレパシーで絵理に指示を出していたのよ。
それで絵理は能力を持つ人間をコントロールしていたの。」
香「今でも能力を持つ人間の情報機関は存在するの?」
望代「ウフフッ。もう無いわよ。
香さん、お父さんの手を握ってあげて。」
伊井 香 は眠るように横たわる父、伊井 嘉源の手を、そっと握った。
自然と伊井 香 の目から涙がこぼれ落ちた。
すると植物状態の伊井 嘉源の目からも涙がこぼれ落ちた。
望代「香さん、また後でいいから落ち着いたら私の理事長室に来てね。」
と言って大賀根 望代は、そっと部屋を出て行った。
伊井 香 は暫く父の手を握ったまま何も語らなかった。
どのくらい伊井 香 は泣いたのだろう…
香「お父さん、また来るね。それまでに少し元気になっていてね。」
そう言って伊井 香 は部屋を出て、また理事長室へと向かった。
望代「香さん、お父さんが生きていて本当に良かったわね。
お父さんはね…絵理がテレパシーで名前を聞いても今まで教えてくれなかったのよ…
でも今日の事件の時に香さんの名前を心の中で何度も何度も叫んでいたらしいのよ。
それで絵理がテレパシーで話し掛けて香さんのお父さんだと言う事が分かったのよ。」
伊井 香 は無言のまま何度も何度も大賀根 望代の言葉に頷いていた。
望代「それと、もう一つ新事実が分かったわ。
香さんの両親を刺したのは安野 丈 の父親じゃないわ。」