俺の声に気付いたのは、ユウではなく、ユウの相方だった。
『おい、ユウ。アレ、お前の知り合い?!』
ユウと一緒にいた男子中学生が、後ろを振り返り、
俺を、何か汚いモノでも見るかの様な目で見つめている。
『あ〜???知らねーよ。そんな汚ねーオッサン。早く行こうぜ。』
なんと、ユウは俺の方を少しも振り返る事も無く、その場を去って行ってしまった。
“汚ねーオッサン”
我ながら、情けないと思った。
自分の息子に、そう呼ばれるなんて、思ってもいなかった。
その言葉は、辞めた会社の上司から馬鹿呼ばわりされた時よりも、
俺の心にひどく応えた。
しかし、ユウのヤツ、こんな早い時間にほっつき歩いて、
何をしているのだろう。
今は、テスト期間中だっただろうか。
思えば俺は、子供達の事を何も知らなかった。
リョウは、ユウとは逆に、最近帰りが遅かった。
妻から、彼女が出来たとか出来ないとか、
そんなたぐいの話を聞かされた様な気がするが、
その記憶も曖昧だった。
仕事を辞めてからというもの、今まで見えなかったモノに気付く様になった気がする。
俺は、ずっと妻にとっての理想の夫を演じてきたつもりだったが、
そもそも妻にとって俺は、本当に理想の夫であったのだろうか。
大して出世欲も無く、不器用で、ただ真面目だと言う事だけが取り柄の俺にとって、
ただがむしゃらに働いて、金を稼ぐ事が、妻にとって1番喜ばしい事だと思っていた。
それが理想の夫像だと思っていた。
しかし本当に、それでよかったのだろうか。
――シラネーヨ。ソンナキタネーオッサン――
さっき、ユウに言われた一言が、
また、俺の心に鳴り響いていた――